本研究では酸化物超電導コイルの交流損失を電気的に計測することが目的であるため、本年度は計測対象の酸化物超電導コイルの製作と冷却系の構築並びにコイルの超電導状態の確認等を実施した。まず、計画書通り酸化物超電導線材を購入し、その線材でダブルパンケーキコイルを製作した。次に、コイル支持材を設計・製作して、コイルをクライオスタット内部に収納した。その後、数回にわたりコイルを液体窒素に浸し、同時に直流と交流の電圧を加え、コイルの超電導状態の確認を行った。超電導コイルの交流損失分に相当する抵抗値は非常に小さいため、交流励磁の場合には超電導コイル両端の電圧に対して通電電流は90°にかなり近い位相遅れとなることを確認した。製作したコイルは、通電時もクエンチせずに安定して超電導状態を保ち、今後の実験に十分活用できることが分かった。 一方、これら超電導コイルの製作実験と並行して、交流損失計測用電子回路を含む計測系の構築も進めた。コイル電圧の信号波形を高精度で90°遅らせて移相すると、コイル電圧と通電電流の信号波形間の位相差は微小となるが、この微小位相差を計測すれば、交流損失の電気的な計測が可能となる。従って、90°の移相回路と微小位相差計測回路を組み合わせて、超電導コイルの交流損失を電気的に計測する方式を本研究では提案している。OTAを用いた微小位相差計測回路力は、内部信号の振幅が最小となるような微調整回路が必要であり、その微調整を自動化するためにVerilog-HDLを用いたデジタル制御部を設計したした。また、ゲートレベルでのシミュレーションも実施し、意図した動作を行うことを確認した。このデジタル制御部の設計回路をFPGAに実装し、超電導コイルの交流損失計測への適用を試み、検討を進めている。今後、次年度にまたがり交流損失計測の実験を数多く実施して、データの蓄積を行う予定でいる。
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