対向ターゲット式高周波マグネトロンスパッタ装置を用いて、ナノスケール多層磁性薄膜磁心を作製し、磁気損失を測定した。印加磁界一定条件での損失は、200kHz付近で磁壁共鳴によるピークを示した。印加磁界振幅増大に伴って、共鳴周波数が高くなり、ピーク崩壊を起こす現象を発見した。この現象は提案した磁気損失カオス理論による予測と一致した。磁区観察装置により、大振幅励磁では、磁区は磁心内外円周部から発生し、楔形に成長して反対円周部に到達し、小振幅励磁では、上記磁化過程で発生した多数の180°磁壁が微小振動することがわかった。磁壁運動は、連続パワースペクトルをもつ極めて複雑な複合運動状態となる事がわかった。誘起電圧波形から、アトラクターを再構成し、リカレンスプロット法によりフラクタル構造を見出し、不規則磁壁運動が、ノイズのような確率系でのランダム運動ではなく、確定系で生ずるカオスであることを確認した。磁壁運動の相関次元解析、カオス分布図作成、カオス制御法の検討、磁気損失評価を合わせて総合的な評価をまとめた。磁壁の不規則振動は、非整数値の相関次元8.83を持つことから、決定論的カオス現象であることを確証できた。励磁界の振幅-周波数空間におけるカオス分布図の作成により、カオスは大振幅-高周波、小振幅-低周波領域外に広く分布すること、また、カオス領域の下縁部境界は、磁壁共鳴領域で形成されることがわかった。カオス状態の磁壁振動を規則振動に制御するために、最も制御性が良く低損失の得られる半周期改良遅延フィードバック法(HPEDFC)を開発した。ナノスケール膜厚多層磁心を用いた力学系-電磁系エネルギー変換機器の変換効率に関して考察した。以上の成果を国際会議で発表し、磁気損失カオス理論と、その応用である磁気損失低減化制御法に対する評価を受けた。
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