微結晶シリコン(μc-Si:H)はアモルファスシリコン(a-Si:H)にnmサイズの微小結晶粒が埋め込まれた混相系物質である。結晶化率が十分高い場合、光励起キャリアの大部分は結晶相内に収集され、結晶粒のpercolationがキャリア輸送を支配する。したがって、粒の形状や粒界の性質ならびに粒の空間的配置が、輸送特性に顕著に反映されることになる。光キャリア輸送の観点から見た場合、a-Si:H相はこの際単なるキャリアの(部分的)供給役を勤めるに過ぎず、その電子物性が材料のマクロな性質に顕著に顔を出すことはない。一方、結晶化率が低くなっていくと、a-Si:H相から結晶相への光キャリアの拡散流入は抑制され、巨視的輸送過程は主にa-Si:H相経由へと転じる。このような低結晶化率物質、すなわちa-Si:Hとμc-Si:Hの構造転移点付近の物質は、しばしばプロトクリスタル(pc-Si:H)と呼称されており、高短距離秩序、低欠陥密度、高光安定性などいくつかの興味深い特性が報告されている。 本年度の研究においては、特にpc-Si:H領域に焦点をあて、光散乱効果を除去したCPMスペクトル、広帯域MPCによる周波数分解ドリフト移動度、局在準位状態密度スペクトルなどにより、光吸収とキャリア輸送に関する種々の評価を行った。微分ラマン散乱スペクトルによる構造評価から、μc-Si:H材料に含まれるa-Si:H相には短距離秩序の顕著な向上が確認された。これは、結晶化率4%以下のpc-Si:H試料においても例外でない。pc-Si:H試料のCPMスペクトルの形状自体はa-Si:H試料のそれに酷似しているが、欠陥が関与する低エネルギー領域において、構造秩序化に起因する光吸収係数の明確な低下が見いだされた。対応してMPC測定により深いエネルギー領域における状態密度が大幅に減少していることが観測されている。実験結果がFermi準位位置の変化によるartifactではないことは確認済みである。undopeのpc-Si:H試料はa-Si:H試料と同じくミッドギャップにFermi準位をもつ。これらの実験事実はこの材料の優れた光電変換機能を意味する。
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