水素化アモルファスシリコンの組織中に微小なシリコン結晶粒が埋め込まれた一種の混相系、微結晶シリコンは、薄膜太陽電池応用を目指し、近年研究開発が精力的に進められている。これは不規則かつ不均一な系であり、また成長条件によっては構造的な異方性をも呈するという、複雑で特異な材料である。本年度研究では変調光電流分光法を駆使して微結晶シリコンの光キャリア輸送特性を詳細に調査した。測定結果およびそれから得られた物理的洞察は以下の通りである。 1)結晶サイズ17〜36nmの(220)優先配向試料ついては結晶化率と移動度にはよい相関が見られた。これは、光電流が結晶粒でできたパーコレーションパスを通じて流れていることを示唆する。なお実験結果から外挿されるパーコレーション閾値は約30%であり、理論とよく一致している。また、この仮説の正当性は結晶相のみ選択励起する赤外変調光電流実験によって確認された。 2)結晶サイズ〜7nmのランダム配向試料については極端な移動度低下が見られた。これから、光キャリア輸送が結晶粒界のポテンシャル障壁あるいはトラップ準位に支配されていることが推測される。定性的には、表面積・体積比がサイズの減少とともに増加するという単純な事実からの理解が可能である。なお、該当試料の結晶化率は約50%であり、球の最密充填条件のそれと同じである。つまり、この領域では全ての(小さな)結晶粒がパーコレートしており、電流チャンネルの数は問題でなくなっている。 3)優先配向試料については輸送特性の顕著な異方性が確認された。これは低対称性格子上の粒子ランダムウォークにより解析的に説明される。
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