高温超伝導体SQUID(超伝導量子干渉デバイス)を、大きな環境磁場雑音下でも安定動作させることを目的として、磁場雑音に強い最適なセンサデバイス形状の検討を、以下のように行った。 1.直結型SQUIDの遮蔽電流によって生ずる雑音について、SQUIDインダクタンスを構成する超伝導YBa_2Cu_3O_<7-x>(YBCO)薄膜細線に電流を印加して、低周波磁束雑音を測定することで検討した。印加電流によって細線で磁束クリープや磁束フローが起こった後に生ずる不可逆的な残留雑音に加えて、印加電流を除去した後に元の値に戻る可逆的な雑音も存在した。前者の生ずる印加電流閾値は後者のそれよりも高く、これらの雑音の原因には細線エッジ部の表面障壁と細線薄膜部のピンニング力が、それぞれ大きく関わっていることが推測された。 2.低周波雑音の源である遮蔽電流が大きくならないように、「磁束ダム」と呼ばれる超伝導性を局所的に弱めた構造を、センサ内に作製することを検討した。具体的には、FIB(集束イオンビーム)を直接照射、または照射後に臭素溶液を用いた化学エッチングを併用することにより、YBCO薄膜の特定部位の超伝導性を深さ方向に制御することに成功した。YBCO薄膜中に形成されるダメージ層(非超伝導層)の深さはビーム加速電圧の大きさで制御でき、その深さ以下の深部YBCOの超伝導性は良好であった。又、金層を通してFIB照射することにより更に深さ制御性が増すことがわかった。 3.直結型SQUID磁束計出力の信号/雑音(S/N)比を向上させるため、SQUIDを直列又は並列に多数個接続してアレイ化することでセンサ出力の向上をはることを試みた。特に有望な並列型SQUIDアレイ構造センサにおいては、一定電圧において動作するようにフィードバックをかけながら電流駆動し、印加磁束の変化をSQUIDの電流変化として検出することに成功した。これにより、たとえアレイ内のN個のSQUID間に臨界電流特性等のばらつきがあったとしても、SQUID電流出力をほぼN倍とすることができ、S/N比を向上させることが可能となった。 以上のような検討結果により、磁場雑音に強い高性能なSQUIDセンサを測定系全体として構築するための大きな知見が得られたと考えられる。
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