共鳴トンネルダイオード(RTD)を用いた、電子コヒーレンス、すなわち、位相コヒーレンス、構造不均一性、環境温度による波長広がりの分離評価手法確立のため、以下の研究を行なった。 これまで本評価手法を用いた位相コヒーレンスと構造不均一性の分離評価が一つのサンプルでしか達成されていなかった。そこで、まず本手法の汎用性を確認する目的で、先の例と異なるデバイス設計を持つRTDの評価を行なった。デバイスはステップフローモードで成長されたInP/GaInAsRTDで、井戸幅4nmを持ち、構造不均一性として井戸幅揺らぎの他に電極層不純物の影響の可能性を考察する目的でバリアと電極層を隔てるスペーサ層厚さは2.6nmと短くした。温度による波長広がりを分離するため4.2Kで得られた測定データは、構造不均一性として井戸幅揺らぎ(標準偏差)を0.6nmとすることで、約三桁変化する電流特性を完全に理論フィッティングでき、低電流領域の特性も位相コヒーレンスには依存しないことが明らかとなった。これにより本手法で用いた理論計算法の汎用性を証明したと同時に、本手法による位相コヒーレンス評価法に限界が存在することが明らかとなった。また、並列して電極層不純物の不規則分布の影響の理論手法を開発し、測定デバイス構造に適用したところ、当初の考察と異なり今回の設計では反映されないことが解かった。この結果は、構造不均一性の起源の分離評価が達成されたことになる。 以上により次年度の研究展開の基礎を築くことができた。
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