共鳴トンネルダイオード(RTD)を用いた、電子コヒーレンス、すなわち、位相コヒーレンス、構造不均一性、環境温度による波長広がりの分離評価手法確立のため、以下の研究を行なった。 これまで本評価手法を用いた位相コヒーレンス測定では、位相緩和の物理要因に対する知見が得られなかった。そこで、化合物半導体量子デバイスで主要な位相緩和要因と考えられるLOフォノンの自然放出と電子-電子散乱の分離評価が可能となるようなRTDの構造解析をし、測定データを分析した。新たな構造では井戸内に故意に電子を蓄積させ、電子-電子散乱の影響を通常のRTDよりも大きなものとした。このため、RTD電流は量子井戸の第二準位を介してながれ、第一準位の電子は井戸とコレクタ材料のバンド不連続によりコレクタ側へ流れず、井戸内に蓄積される。エミッタ/バリア/井戸/バリア/コレクタの材料をそれぞれInGaAs/AlAs/InGaAs/AlAs/InPとし、井戸の幅を8nmとすることで、上記の動作が可能であることを確認した。作製された素子のIV特性を理論フィッティングを試みたところ、共鳴ピーク付近のリニア特性に関してはフィッティングに成功したが、位相コヒーレンス測定に必要な低電圧、低電流部の特性はガウス分布を反映したものとなり、不均一広がりの影響にマスクされ、位相コヒーレンスの評価は不可能であった。この原因は井戸幅の構造不均一性の他、井戸内蓄積電荷による非線形効果の可能性があり、現在解析中であるが、今後の位相緩和要因の特定実験に対する一つの指針を与えた。
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