研究概要 |
本研究は,量子補正モンテカルロデバイスシミュレーションという独自のナノデバイス計算手法を完成させるとともに,それを用いて,ポストスケーリング時代におけるシリコン集積化デバイスの量子輸送特性の解明とその極限性能の追及を目的とした。 極微細Si MOSFETの量子輸送特性を解析するには,シリコン伝導帯の回転楕円体・多谷バンド構造を正確に考慮することが重要である。本研究では,シリコン伝導帯の回転楕円体・多谷バンド構造を考慮した量子補正モンテカルロデバイスシミュレータを確立した。その結果,超薄膜SOI構造およびダブルゲート構造における反転層量子化サブバンドの制御を利用した高移動度トランジスタの解析が可能になった。さらに,電子電子相互作用のモデル化に取り組み,速度飽和の電子濃度依存性の実験結果を理論的に説明することに初めて成功した。また,3次元MOS構造への適用を可能にするために,量子補正モンテカルロデバイスシミュレータの3次元化にも着手し,MOS反転層移動度のユニバーサル曲線を再現することができた。 ナノスケールMOSFETの準バリスティック輸送特性についても検討を行い,微細化限界に関する重要な知見を得た。具体的には,MOSFETのキャリア注入過程は,いわゆる拡散過程が重要な役割を果たしており,このためにボトルネック点において,完全非対称なフェルミディラック分布を仮定する完全注入モデルは正しくないという結果を得た。一方,バリスティック輸送の影響により,チャネル長が20nm以下にまで微細化されると,電流駆動力が大幅に向上するという興味深い結果が得られた。電流駆動力の向上は,サブ10nmの領域まで期待することができることも分かった。将来のMOSFET微細化限界を議論する上で重要な知見である。
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