ジョセフソン効果は1964年の発見以来、電磁波検出器や電圧標準システムなど極低温環境の利点を活かした応用が主であった。すなわち、本質的に熱雑音の小さな極低温環境を利用して、半導体検出器では達成不可能な超高感度を実現していた。確かにジョセフソン接合を使って論理回路を構成し、スーパーコンピュータを作り出すことは不可能ではない。しかし、これまでのシリコン技術をさらに発展させれば、従来では考えられないような性能のコンピュータの出現も夢ではない。 1986年のミュラーとベドノルツによる高温超伝導体の出現により、液体窒素温度すなわち絶対温度で77Kという高い温度でも超伝導現象が利用できるようになり、最近では移動体基地局用アナログフィルタへの応用が盛んに研究されるようになった。一方、21世紀に入り、人類は新たな混沌とした時代の始まりを感じている。一見混沌としているような現象、例えば景気の変動のような未来を予測することが困難な事象を取り扱う科学として、複雑系の科学に注目が集まっている。カオスの研究は盛んになるばかりである。ところがジョセフソン効果の研究の歴史を辿れば、ジョセフソン接合の分野こそ豊かなカオス研究の場であった。典型的な非線形現象であるジョセフソン効果は、マイクロ波照射のような外場が加わるとカオス的に振る舞うことは良く知られている。 平成17年度の研究では、ジョセフソン・テトロードの動作マージンを明らかにするために数値解析を行った。3つのジョセフソン接合が同時に有限電圧状態にあり、ジョセフソン効果により発振状態にあり、3つの発振のある種の周波数混合によってカオスが引き起こされることを利用して、動作マージン解析を行った。その結果、5つのジョセフソン接合の正常抵抗値の組み合わせによって、動作マージンが大きく変化することが明らかになった。例えば、Rn12を基準抵抗とした場合、Rn23はある程度変化してもカオス状態を維持できるものの、Rn24はかなりばらつきを厳しく制御しなければならないことが明らかになった。
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