研究概要 |
信号源やその伝達・混合過程に関する事前情報がなく,それらの統計的な性質のみを仮定して信号源を分離するブラインド形信号源分離(BSS)に関して研究を行った.特に,伝達・混合過程に非線形を含む場合は信号源の混合も複雑になり,それらを分離することは一般に難しい. 本研究では,信号源の高次項を含む信号群を分離する過程と,その後に高次項を抑制する線形化の過程を縦続接続する方法を提案した.また,この構成法に対する学習法を新たに提案した.音声の信号源が2個の場合と3個の場合についてシミュレーションを行った.観測信号に比べて,干渉成分と非線形成分(高次項)は約20dB程度減衰しており,有効性が確認できた.本方法では,信号源の数より多い観測センサーが必要とされる.これに関して,非線形成分の大きさと必要とされる観測センサー数の関係について解析し,実際の応用場面では,センサー数を低減できることを示した.さらに,線形化→信号群分離→線形化というサンドウィッチ構造を提案し,少ないセンサー数で良好な分離特性を得た. ブラインド形信号源分離では,分離回路において信号が歪むという問題がある.これに関して,フィードフォワード形BSS(FF-BSS)とフィードバック形BSS(FB-BSS)について解析を行い,信号歪みのメカニズムを始めて明らかにした.FF-BSSは分離回路の自由度が高く,信号歪みが生じる.一方,FB-BSSは観測信号から信号歪みを生じることなく,分離が可能であることが明らかになった.さらに,本研究では,FF-BSSにおいても信号歪みを抑制するための制約条件を付加した学習法を提案し,時間領域における学習で従来法に比べて信号歪みを抑えることができた. 以上,本研究では,非線形混合過程におけるBSSに対して新しい方法を提案し,さらに,従来行われていなかった信号歪みの問題を解析し,新しい学習法を提案した.これらにより,BSSをより現実的な場面に応用することが可能になり,また,分離後においても良好な音質が保証される.
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