研究概要 |
本年度は,フィルタバンクを冗長系に拡張する際,その基礎となる定理を証明し,計算機実験によりそれが正しいことを確認した.また,データ通信への拡張を試みた.つまり,フィルタバンクにより信号を変換した後に,通信路において雑音が発生した場合でも,それを最大限に抑制できるフィルタバンクを理論的に構築した.またその存在条件を明らかにした.以下具体的に述べる. 完全再構成フィルタバンクとは,入力信号を複数の線形時不変フィルタにより周波数帯域に分割し,それを保存・または転送し,そのチャンネル信号を再びフィルタリングすることにより,原信号を完全に再構成できるフィルタバンクである.そのなかでも,チャンネル数とダウンサンプリング間隔が異なる場合を扱った.このようにフィルタバンクに自由度を与えることによって,信号伝送などにおける耐性が向上することは知られていたが,これを理論的に構築することはされていなかった.そこで,分析フィルタバンクをあるクラスに制限した場合に限って,合成フィルタバンクがどのように場合に存在するか,これの必要十分条件を与えた.ここでsubstantial rankという新しい概念を導入し,フィルタバンク設計を従来の行列ランクを求めるような問題に落とし込むことに成功した.またコンピュータシミュレーションを行うことにより,実際にフィルタ係数を最適化問題を解くことで求められる事を示した.さらに,伝送チャンネル中で発生する雑音を仮定して,その抑制特性を定量的に示した. つぎに,フィルタバンクが複数あるものを切り替えて用いる,時変フィルタバンクの検討を行った.本研究課題の初年度(平成15年度)で扱った,最大間引き型の時変フィルタバンクが繰り返し演算による信号再構成処理を必要とするのに対して,今年度あらたに構築したフィルタバンクは,時変型にしても繰り返し演算を必要としないことが理論的にわかった.さらに,音声信号を用いた計算機実験によって,このことを実際に確認した.したがって,これは計算量削減の点で非常に有効であると言えよう. 以上の成果は,IEEE主催の画像処理国際会議,およびIEEE Transactions on Signal Processingにおいて公表した論文の一部を構成している.また今年度は,本課題で得られた研究結果を数カ所で発表(プレゼンテーション)することができた.その結果,今後の研究発展への足がかりをつかむことができた.
|