人間の判断に近い柔らかな処理をコンピュータ上に実現することを目指し、知識が不完全(欠落、誤り、矛盾等)でも、常識知識を活用してその不完全さに応じた概略的な解答を提示する推論技術(概略推論法)ついて研究した。また、そのベースとなる常識知識の電子化文書からの自動獲得法について研究した。以下に主な研究成果を示す。 1.概略推論法の研究 言葉をベースとする拡張型の述語論理表現法(昨年度提案)を想定した、推論処理法および自然言語文からの変換法について研究した。前者に関しては、従来の述語論理では素式の引数は個体を表す定数、変数、関数に限定されていたが、これを個体の集合である概念まで拡張した場合の照合処理法を明らかにした。また、後者に関しては、昨年度は主に単文を対象としていたが、今年度は一般的な複文まで変換可能とする基本技術を開発した。現在、省略のない文法的に正しい複文については約80%程度を変換可能である。 2.常識知識ベースの研究 これまで構築してきた概念ベースに関しては、その類似性判別能力を従来のシソーラスと比較して定量的に評価した。この結果、我々が既に提案している評価法でも、また広く一般的に用いられている人間の感覚に基づく評価法でも、概念ベースの方が高い類似性判別能力があることが示された。また、常識知識の自動獲得に関しては、これまでの国語辞書からの事実知識の獲得法に加え、一般電子化文書からの因果知識の獲得法について研究した。今期は、接続詞"にもかかわらず"を含む文の特徴に着目した、否定的な因果知識の獲得法を考案した。
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