本研究では、超音波腹部組織映像の実現に向けた検討を行った。そのためには、腹部体表面上で減衰することなく観測可能な受信散乱波を用いる必要があり、その対策として通常より一桁周波数の低い100kHz帯の透過型超音波観測データに基づいたCT法を提案した。その際、音波の障害物となる脊髄を通過する経路を避けたデータを用いる必要があると同時に、ハードウェアコストや測定時間の削減の観点から、百経路程度の少ない数の経路上の測定データから再現できるCT法を検討することにした。そのための基礎的検討として、100kHz帯の長波長回折領域において、狭開口送受信器間の透過伝搬時間差データ(位相差データ)が、送受信器間経路上の逆音速積分に近似的に一致する事実を明らかにし、本研究におけるCT計算の基本式として用いることとした。その際、未知の画素数に比べて取得経路データ数が極端に少ない問題に対処する必要があることに加えて、脊髄のような障害物を回避できるCT計算法を検討する必要がある。本研究では、この悪条件過小決定逆問題に対処できる方法として、経路平滑化ART法を考案するとともに、その有効性を数値差分法によるシミュレーションおよび評価実験により検証した。具体的には、測定試料として脊髄を含む腹部模擬ファントムを用意し、物体周囲上の複数の送受信器間の透過伝搬時間データをもとに、2次元音速分布の画像再構成試験を行った。200mm×200mmの腹部対象領域を囲む円周周囲上の16箇所に、開口10mmの送受信エレメントを配置し、送受信器の組合せの120経路の経路上で、照射中心周波数200kHzのパルス音波の送受信システムを提示した。本問題では、物体中央付近に存在する脊髄を通る経路を避け、なおかつ少ない経路データから画像を再現することを余儀なくされているにも関わらず、音速の再現精度が良好な腹部音速画像が再現できる結果を示すことができた。以上の検討の結果、内臓脂肪面積の判定など、音速分布が大まかに求まれば良い用途であれば本提案法が十分に実用的に使用できることが期待され、当初の研究目的がほぼ達成できたものと考える。
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