研究概要 |
鉄筋コンクリート構造物のLCC(ライフサイクルコスト)の算定法については,昨年度までには解決できなかったふたつの課題の解決の課題に努めた. ひとつは,昨年度までに開発した解析プログラムには,解析条件によっては明らかに好ましくない解析結果しか得られない重大な問題が含まれていた. 他のひとつは,ある時期に部材の鋼板接着工法で補強を行うとした場合,これまでは鋼板の腐食劣化の時期については考慮せず,補強後直ちに腐食が始まるという仮定の下でプログラムを構築していた.しかし,鋼板には一般的に塗装がなされ,塗料や塗装方法にもよるが,そのために鋼板が腐食によって劣化するまでには数年あるいはそれ以上の期間が存在する.したがって,このことを考慮できるように解析プログラムを改良することが必要であった.まず,ひとつ目の課題については,かなり複雑なプログラムを詳細に見直し,ある箇所のバグを発見することができた.そして,その箇所を修正した新たなプログラムの妥当性については,昨年と同様の解析モデル(曲げモーメントを受けるT形鉄筋コンクリート部材)に対する解析結果によって検証した. ふたつ目の課題については,数種類の鋼板の塗装方法と腐食開始時期に対する資料を収集し,その成果を昨年度までの解析プログラムに適用した.そして,前述の解析モデルを対象にしてパラメトリックな解析を行い,鋼板の腐食が補強後に直ちに始まると仮定して評価して算出した場合よりも最適LCCが抑えられることを定量的に示すことができた. このように今年度はLCC評価の問題にほとんどのエネルギーを費やしたため,不可避な不確実性を考慮した鉄筋コンクリート構造物の構造信頼性評価法に関する研究については大きく発展させることができなかった.この点が次年度に残された大きな課題である.
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