群馬県の東北部に位置する渡良瀬川流域では、日本の高度のあまり高くない渓流の平均値よりは若干高めの窒素濃度(T-Nで1ppm前後)であるのに対して、西南部に位置する烏川流域では常に3ppm程度の極めて高い濃度を示している。これは首都圏で生産されたNOxが風に運ばれて、森林の樹葉等に乾性あるいは湿性沈着した結果であると考えられる。つまり、首都圏からの風の通り道にあたるか否かによって渓流の窒素濃度に差が生じたものと考えられる。本研究では、利根川をはさんで群馬県を東西に分け、渓流水を採取すると同時に土壌試料も採取し、窒素飽和の状態になっているのかどうかの現状分析を行った。今年度の分析結果では、渓流水の窒素濃度については既往の知見と同じく、西部では通常の値の1.5〜2.5倍の高濃度を示した。また、土壌水窒素濃度についても、西部の方が東部よりも顕著に高い濃度を示した。とくに西部の2地点では、深さ方向に一定の濃度が続き、窒素飽和現象の兆しが読み取れた。窒素飽和に関しては、その地域の窒素収支を明らかにする必要があるため、今年度はFOREST-BGCモデルの一部を用いて、窒素収支を計算してみた。その結果、前橋で代表される気象条件のもとでの、森林で1年間に循環していると考えられる窒素量は、大気からの窒素供給量が西部のように大きな値のところでも、はるかに供給量を超える値となり、単純な窒素収支計算からでは窒素飽和は生じないという結果となった。しかし、現実には窒素飽和現象が生じているのではないかと疑われる地域もあるため、この計算の中で用いているパラメータ値(外国の標準的な値を用いている)の検討も含めて、さらに詳細なシミュレーションを行う必要がある。
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