首都圏で排出された窒素酸化物が内陸に向かう風に乗って群馬県に運ばれ、乾性・湿性沈着によって最終的に森林土壌に入ってくる。本研究は群馬県の渓流水と森林の土壌水の窒素濃度を計測し、さらに物質循環モデルを用いて、森林の窒素飽和の可能性について検討を行ったものである。 群馬県を利根川で東西に分けて、渓流水の窒素濃度を比較すると、東部は1ppm前後であるのに対して、西部は2〜3ppm前後と2〜3倍近い値を示す。とくに西部においては平成15年5月から顕著に増加し、4ppm前後の値が10月頃まで継続し、その後下降して変化前の値に戻った。他の地点ではこの変化はあまり顕著ではなく、その原因は現在のところ不明である。また、土壌水の窒素濃度は、やはり西部で高い値を示すが、経年的な増減はなく、毎年ほぼ同じ分布形状を示している。また、その形状も鉛直下方に行くに従って濃度は小さくなり、この意味ではとくに窒素飽和の徴候は見られない。つぎに、森林における物質循環のモデルとしてLinのモデルを採用し、これと水収支モデルを組み合わせて、炭素と窒素の収支を検討した。計算は月単位で行い、前橋の平均的な気候値を用いた。その結果、樹木による光合成と呼吸の差し引き炭素生産量は4.95t・C/ha・年、窒素は樹木の中で0.5kg・N/ha・年の増加となり、ほぼ妥当な値となった。一方、土壌中の窒素濃度に経年的な変化がないことから、生産(大気による流入を含む)と消費(流出を含む)がバランスしているとして収支式から渓流流出量を逆算すると、東部で1.8ppm、西部で4.3ppmの渓流水濃度となり、ほぼ実測の渓流の窒素濃度を説明することができた。
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