研究概要 |
ラフィド藻Gonyostomum semenは遊泳能力をもつ走光性の比較的大型の植物プランクトンで、そのブルームは高濃度に集積する性質がある。わが国では研究報告の殆どない種であるが、北欧や米国では人体への影響もあることから、研究対象とされている。川原大池(長崎半島中部)では毎年G.semenのブルームの発生・消滅が繰り返えされていることが観測されている。ブルーム発生の時季は6月初旬から9月中旬である。したがって、水温がブルーム発生のトリガーの一つであることに疑いはないが、他の要因はまだよく分からない。 川原大池は最深部で9m程度であるが、この種のブルームは1m以下の薄い層をなして高濃度(測定値6000cells/ml)に集積し、湖の広い範囲に発生する。そのブルームを形成する水深は3m〜7mの範囲を日周期で移動することが観測された。この種の光合成に最適な光量は、文献によると、75〜90μmolm^<-2>s^<-1>とされているが、ブルーム層の光量はこれよりもかなり少なく深い位置にブルームは存在する。この原因を調べると,pHであることが判明した。植物プランクトンの活動が盛んな表層のpHは、一般的に光合成のために高い値を示すが、この種は、日中、光を求めて上昇移動するが,pHが8を超える層には移動しえないことが分かった。pHが8を超える表層の厚さは、無降雨期間が長いと厚くなり、降雨があると薄くなる。したがって、表層のpHが8を超える層の厚さの増減により、G.semenの鉛直上昇移動の範囲が変化することとなる。 一方,夜間は下降移動する。理由は、底泥から溶出する豊富な栄養塩を求めるためと考えられているが,最も栄養塩が豊富な底泥直上までは下降移動しないことから、下降移動を制限する要因を調べた。夏季には、湖は水温成層し、鉛直循環が衰え,水表面からの酸素供給がなくなるため、低層は貧酸素もしくは無酸素状態となる。このため、この種は呼吸に必要な酸素が乏しい下層には移動し得ないことが分かった。今回の調査で,G.semenの生息条件や鉛直移動特性が明らかになった。
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