研究概要 |
福井における酸性雨は、大きな被害の出ている欧米や中国のそれと強度においてはそれほど大きな差はないが,まだ被害は出ていない。このまま無被害で済むのか、被害が出るとすればいつ頃からかを明らかにするために研究を開始した。酸性雨は大気汚染として存在する二酸化硫黄(SO_2)と窒素酸化物(NO_x)が大気中で数日をかけてゆっくりと酸化されて硫酸と硝酸になり、雨滴中に含まれて降下するものである。原因物質であるSO_2とNO_xの東アジアにおける負荷発生量は多くの研究者により推定されている。これに大気中における物質の長距離輸送と、SO_2が硫酸に、NO_xが硝酸に酸化される過程を入れ、その沈降速度を考えると福井における降雨中の硫酸と硝酸の濃度を推定できる。福井に到達するこれら酸性物質の起源を求めると、中国大陸の寄与が約7割に達する。雨水中の酸の濃度を推定してpHを求め、これを平成13年1月から平成16年12月までの4年間にわたり福井工業大学3号館屋上で観測している酸性雨のpHと比較すると、かなり良い一致を見た。福井に影響を及ぼす東アジアのSO_2やNO_xの将来負荷発生量は独立行政法人環境研究所により2032年まで推定されている。その値を用いて福井の酸性雨pHの将来を推定すると現在の年平均pH=4.55が、2025年頃約4.40まで低下すると予想される。そして以後ゆるやかではあるが回復に向かうと見られる。これは福井に大きな影響を与える中国大陸において、燃料が硫黄分の多い石炭から、硫黄分の少ない石油へ転換が進むと予想されるからである。このまま燃料の転換が進めば大陸におけるSO_2の大気中濃度は横ばいとなり、やがて東欧諸国に見られるように減少に向かうものとみられる。そして福井も酸性雨の被害を蒙らずにすむ可能性がある。しかしこの推定は中国大陸において燃料の転換が進むとする予測に基づくものであり、東アジアことに中国の経済発展とエネルギー事情に引き続き注目して行く必要があるものと考える。
|