酸性雨は主として燃料の燃焼によって発生する二酸化硫黄(SO_2)と窒素酸化物(NO_x)が大気中で半減期数日のゆっくりした速度で硫酸(H_2SO_4)と硝酸(HNO_3)に酸化され、雨滴中に含まれて降下するもので、その間大気はおおむね西から東に数百kmから千数百km移動する。平成15年と16年の研究で、まず福井に到達する大気の流跡を求め、その下で発生する酸性雨原因物質である二酸化硫黄と窒素酸化物が高さ1000mの混合層内で完全混合しながら硫酸と硝酸への酸化と物理沈降を受けて福井に到達するとして、福井における大気中の二酸化硫黄、窒素酸化物、硫酸、硝酸の濃度を推定した。一方地上における大気中の二酸化硫黄と窒素酸化物の濃度は福井県等により測定されている。これと推定値とを比較することにより硫酸と硝酸の濃度を修正した。雨水中の硫酸と硝酸の濃度は降水量と大気中硫酸と硝酸の沈降速度から推定できる。これと福井工業大学屋上で観測している降雨のpHとを比較すると良い一致を見た。独立行政法人環境研究所が2032年までの東アジアにおける酸性雨原因物質負荷発生量を推定しているので、これを用いて福井の酸性雨の将来を推定すると、年平均で現在のpH=4.55が2025年ごろ4.40にまで低下し、それ以後ゆるやかに回復すると推定された。この結果は酸性雨を中和するアルカリ成分である黄砂やアンモニアの影響は入っていない。そこで17年度は両者の効果を研究した。黄砂は春先に中国のタクラマカン砂漠とゴビ砂漠から飛来するアルカリ性のダストで、酸を中和する能力を持っている。タクラマカン砂漠から来るものがゴビ砂漠から来るものより多い、最近飛来する回数と量が多くなっていると言われる。福井工業大学屋上で分別採取器を用いて黄砂を含むDry Falloutを毎月採取し、またタクラマカン砂漠に調査に行った。硫酸:硝酸=2:1でpH=4.5の模擬酸性雨を作り、これに黄砂や福井のDry Falloutを加え、pHの変化を測定した。福井のFalloutは黄砂の多かった平成17年5月の場合、pH=4.40よりpH=4.44に多少の上昇を見たが、あとはほとんど影響を与えないか、あるいはpHが下がる場合があった。一方タクラマカン砂漠の土はpH=4.47からpH=4.56に上昇を見た。黄砂は中国から日本に飛来する間にかなり中和能を失うものと思われる。なお福井におけるDry Falloutはごく微細な粒子だが、タクラマカン砂漠の土は細砂である。福井に黄砂の降るのは年に数回であり、影響はほとんど無視できる。アンモニアについても発生量がわかっているので二酸化硫黄や窒素酸化物と同様に福井に及ぼす影響を計算したが、黄砂より影響が少ないことを知った。黄砂もアンモニアも酸性雨のpHを上げる方向に働くので、福井の山野は酸性雨の被害を免れるのではないかとする平成16年度の結論を修正する必要はなさそうである。
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