福井における酸性雨は、大きな被害の出ている欧米や中国、南米のそれと酸性はそれほど変わらないが、はっきとした被害はまだ出ていない。このまま影響が出ないのか、出るとすればいつ頃からかを明らかにしようと研究を始めた。酸性雨は主として燃料の燃焼によって発生する二酸化硫黄(SO_2)と窒素酸化物(NO_x)が大気中で半減期数日のゆっくりした速度で硫酸(H_2SO_4)と硝酸(HNO_3)に酸化され、雨滴中に含まれて降下するもので、その間大気はおおむね西から東に数百kmから千数百km移動する。東アジアのSO_2とNO_xの発生量は秋元等が求めているので、福井に到達する大気の流線を求め、その下で発生するSO_2とNO_xが化学変化と物理沈降を受けながら福井に到達する過程を計算すると福井の大気中のSO_2とNO_x硫酸と硝酸の濃度を計算できる。これと大気中のSO_2とNO_x濃度の実測値とを比較すると計算の精度が求まる。SO_2は実測値が推定値の約3.6倍、NO_xは一桁高い値となった。これにより硫酸と硝酸の値を修正し、沈降速度と降水量からpHを推定し、これを福井工業大学で実測している雨のpHと比較すると、かなり良い一致を見た。一方SO_2とNO_xの将来負荷発生量は独立行政法人環境研究所が2032まで予測している。その値を用いて福井の酸性雨のpHを予測すると年平均で現在のpH=4.55が2025年ごろ4.40まで低下し、それ以後緩やかであるが回復に向かうと推定される。これは福井に大きな影響を与える中国大陸において、燃料が硫黄分の多い石炭から硫黄分の少ない石油へと転換が進み、またSO_2とNO_xの除去技術の向上が見込めるからである。このまま燃料の転換が進めば中国大陸の大気中SO_2濃度は横ばいとなり、やがて東欧諸国のように減少に向かうものと見られる。厳密には酸性雨が地上に達して土壌と反応し、どのような変化を土壌に与えるかを知って陸水や植生への影響を判断せねばならぬが、pH4.4程度の降雨は今まで福井で数多く観測されているので、福井の山野は将来に渡り酸性雨の被害をまぬがれるのではないかと推測される。
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