研究概要 |
昨年度,アンチモンを環境中に放出している事業所として日本エステル(株)岡崎工場の周辺環境に注目し,周辺の土壌および河川水を採取,分析して汚染の実態を明らかにした。今年度は昨年度の研究を踏まえ,比較的高いアンチモン濃度を検出した地点を中心に,より詳細な土壌調査を実施した。さらに,生理学的抽出実験(以下PBET法)を実施することにより,工場周辺土壌を人が摂取した場合の,アンチモンによる健康リスク評価を試みた。また,人工ゼオライトおよび酸化マンガン(IV)を用いて水中アンチモンの吸着実験を実施し,アンチモン除去法としての有効性について検討した。得られた主な成果を以下に示す。 (1)中性子放射化分析法の結果より、(12)日名中公園の中層・下層(10〜20cm)を除いて、全ての採取場所で最大自然界値(0.91mg/kg)を超えていた。特に、日本エステル敷地境界では最大自然界値の約48倍の高濃度であった。 (2)精製抽出法による抽出液中のアンチモンの酸化数別濃度をAPCDT法により定量した結果,毒性の高い3価のアンチモンは最大40%強であり,5価のアンチモンが支配的であった。 (3)最もアンチモン濃度が高い工場敷地境界土壌を摂取した場合のアンチモンの体内吸収による健康リスクは,大人の場合でTDIの約1/20であり,特に問題になるレベルではなかった。ただしTDIが体重に比例すると仮定すると,幼児の場合,アンチモンの体内吸収量はTDIの約1/2に相当する。 (4)人工ゼオライトよりも酸化マンガン(IV)に酸化ビスマスを添加し400℃で焼成して作成した吸着剤の方が,アンチモンの吸着効果が高かった。特に河川水中のアンチモン(初期濃度約80μg/L)は,1(μg/L)以下まで低下させることが可能である。ただし,最適な酸化ビスマスの配合率は,溶液の性状(土壌抽出液,河川水,超純水+アンチモン)によって異なる。
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