研究概要 |
PRTRのデータを基に愛知県内でアンチモンを使用し、環境中への放出が報告されている工場の周辺で環境(土壌、河川水、植物)調査を実施した。さらに生理学的抽出実験(以下PBET法)を実施することにより,アンチモンで汚染した土壌の摂取による健康リスクを評価した。また,人工ゼオライトおよびマンガン-ビスマス酸化物を吸着剤として水中アンチモンの吸着実験を実施し,各吸着剤のアンチモン除去法としての有効性について検討した。得られた主な成果を以下に要約する。 (1)工場敷地境界の土壌中アンチモン濃度は,1N塩酸抽出法で最大自然界値の約11倍,中性子放射化分析法で最大自然界値の約42倍の高濃度を検出した。 (2)PBET法を実施した結果,胃・腸ともに,時間の経過に伴って溶出濃度が上昇する傾向が見られた。溶出量は胃のpH(空腹の度合い)に依存し,空腹時(pH1.3)は満腹時(pH4.0)よりも約2倍多くアンチモンが溶出した。 (3)最もアンチモン濃度が高い工場敷地境界土壌を摂取した場合のアンチモンの体内吸収による健康リスクは,大人の場合でTDIの約1/20であり,特に問題になるレベルではなかった。ただしTDIが体重に比例すると仮定すると,幼児の場合,アンチモンの体内吸収量はTDIの約1/2に相当する。 (4)人工ゼオライトを吸着剤に使用し,超純水・河川水・土壌溶液を用いたアンチモンの吸着実験を実施した。初期濃度2mg/Lおよび0.02mg/Lのいずれでも,98.6〜99.93%の高いアンチモン除去率を得た。 (5)マンガン-ビスマス酸化物では,酸化マンガン:酸化ビスマス(重量比)が1:1または1:0.8の時に最もアンチモンの除去効果が高かった。焼成温度は400℃〜500℃にするのが最も除去効率が高かった。いずれの溶液でも除去率は99.9%以上を示し,排水中アンチモンの吸着除去剤として有望であることを実験的に示した。
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