本研究では、いままでほとんど考慮されてこなかった、接合部での地震エネルギー吸収を積極的に考慮した「ディバイス型プレキャストコンクリート構造」の耐震設計手法の確立を究極の目標に、設計法確立に関する問題抽出とその解決法の解明を行おうとするものである。 「高強度コンクリートを用いたひび割れ面におけるせん断力伝達機構の解明」では、100N/mm^2を超えるような超高強度コンクリートを用いたプレキャスト接合部を模擬した試験体の直接せん断実験を行い、そのせん断性状の把握および高強度コンクリートを用いた部材のひび割れ面に適用することを目的として、せん断伝達構成則の提案を行った。 「接合筋を傾斜配筋させたプレキャスト接合部のせん断力伝達機構の解明」では、接合筋に軸方向引張力を作用させる方法として、接合筋を傾斜配筋させる方法を考案し、その構造性能の確認実験を行った。接合筋をわずかに傾斜させるだけで、靭性に富みエネルギー消費能力に優れた接合部を形成できること、傾斜配筋させることで、接合筋に作用する力はダボせん断力ではなく軸方向引張力となることを確認した。 「成果の応用:せん断ひび割れに傾斜交差する鉄筋を有する鉄筋コンクリート柱のひび割れ挙動および評価」では、実際の接合面にはせん断力と同時に接合面圧縮力が作用する。このような状況下で傾斜配筋の有効性を検証することは有意義であるが、試験体製作上あるいは実験における加力操作上の制約も大きい。そこで、接合部を柱型試験体の斜めひび割れ面と等価と考え、柱の曲げせん断実験を行い、ひび割れ幅(すなわち接合筋)の軸方向伸びにより、ひび割れ部のせん断耐力およびエネルギー消費能力が評価可能となるとの知見を得た。 以上の研究成果より、エネルギー消費能力に富んだ接合部が形成可能となり、ディバイス型プレキャスト接合部の成立が可能であることを示した。
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