本研究では、測定対象建物模型の測定面に"ろ紙"を貼り付け、その部分に含ませた水分の蒸発量を精密電子天秤で秤量するという独自の交換係数実験方法を駆使し、対象模型の形状や、周辺建物配列による影響を風洞実験により系統的に検討した。この手法は、放射や伝導によるフラックスが存在する熱現象とは異なり、対流フラックスのみを容易にかつ高精度に測定できるのが特徴である。 これまでの実験で、2次元配列に関しては街路空間の縦横比を変え、構成面別の面平均と面を分割測定した面内分布の把握、また3次元配置に関しては各構成面に関して面平均での建ぺい率との関係が検討されている。そこで、今研究では3次元配置における面内交換係数分布の測定を行った。街路空間の縦横比を変え、建ぺい率と面内分布の関係を明らかにした。さらに、風向変化による検討も行いその影響を把握した。建物形状は建物配置と同様に周辺気流を決定付ける上で非常に重要であるが、屋根の有無および勾配と交換係数についてなされた研究例は少ない。そこで、本研究では2次元配列における屋根勾配の差異による面内交換係数分布の測定も行った。屋根形状は切妻屋根とし、日本の屋根のような比較的勾配の緩いものから欧州の屋根のように勾配の急なケースまで計4種類用意した。街路空間の縦横比と屋根勾配を系統的に変化させて測定を行い、各面における詳細な交換係数分布を把握した。 一方、以上のような単純均等配列の結果が現実の複雑な市街地の状況をどれほど再現しているかは不明である。そこで、実物を1/750に縮小した実在都市模型を用いて空間的なばらつきの大きさを測定した。街路に直交した2風向について交換係数分布を把握した結果、各点ごとのばらつきは大きいが、街路の平均値としてはいずれの風向でもほぼ同じ値であることがわかった。
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