1.これまでに開発した確率論的都市モデルと統計物理学との類似性に着目し、都市の土地利用パターンの複雑さを表すE-エントロピーという概念を定式化した。このE-エントロピーを用いると、統計物理学におけるヘルムホルツの自由エネルギーに相当するF関数と呼ぶ量が構成できることを見出した。F関数は、土地利用の推移に伴い減少し、安定均衡状態で極小化する性質をもつことから、このF関数の極小化として、都市の士地利用変化過程が記述可能であることを明らかにした。 2.F関数の極値問題を調べるため統計物理学で用いられている平均場理論を適用することで、目標とする都市の土地利用パターンを実現するための規制・誘導戦略を検討した。その結果、規制・誘導による都市の土地利用状態変化過程で、パラメータの僅かな差異が状態変化経路を大きく変化させるというカタストロフィー現象(分枝過程)がみられることが分かった。その結果として、1)都市での変化(建て替え等)が不活発な状況では都市状態の変化が迂回的になることがあり、非効率的であること、2)したがって、目標状態への速やかな誘導のためには、ある程度の経済活況や規制緩和が必要であることが判明した。 3.F関数を決定するパラメータを徐々に変化させ、F関数の形状が極値の数が変化する分枝過程の特徴を、数値計算で確認するとともに、土地利用状態変化のコンピュータシミュレーションモデルにより、シミュレーション実験を行い、理論的結果の妥当性を確認した。 4.現在までの確率論的都市モデルでは、理論解析を簡単化するために、土地利用の用途は2種類に限定してきたが、より一般的に3種類以上の土地利用用途の場合でも扱えるモデルへと拡張する必要がある。本年度の後半では、この多種用途を扱うため確率論的都市モデルの再定式化を試みた。
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