前年度に引き続き、典型事例に関するヒヤリング・観察調査、文献調査、研究者自身の参画による具体的な実践活動と評価を行った。これらと共に全体を総合したまとめを制作中である。 文献抽出によるフィールド調査を行った。とりわけ沖縄地方の死生観・思想(ニライカナイ)に支えられた生活スタイル・コミュニティ、また高齢化率日本一の山口県東和町の住民意識・生活などには、高齢化・過疎化に抗う今日的地域社会を拓く方向・方法が示唆された。そこには、ハイテク医療・通信など高度技術とは異なる、地場の歴史・記憶、生活、産業に根ざしたコミュニティ育成の方向がある。また一次産業への着目も示唆される。その中で高齢社会、また死を意識しつつ、「豊かさ」とは何かの価値観が、時代の新しいスタイルとして拓かれる可能性がある。一方、福祉・制度面でも示唆的な事例があった。生前契約を実践しているリスシステム(東京)など、「契約」の概念から死を通じてコミュニティ育成の方向が示唆された。また岩手県は医療費無料などの先進的事例を抱える県であるが、その効果の一方で、厳しい財源状況の中で今後の課題が大きいことなども把握された。その他、介護施設、地方の共同店舗運営、農村コミュニティなどの事例から多くの情報が得られた。 研究者参画による実践活動においては、北海道帯広市において全国的モデルと成り得る新しい福祉コミュニティ及び施設づくりを展開中である。その一連の作業において、本研究に照らした貴重な情報を得ると共に、具体のモデルが構築されつつある。とりわけ、医療・介護現場の現状(専門家・サービス提供者)と高齢者・障害者及びその家族(生活者・サービス受給者)の乖離を埋める仕組み・施設の必要性が顕在化し、その上で関係者とのネットワークのもと協働展開している本事例の今後は大きく期待される。
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