本研究の目的は、聴覚障害児・者が施設を利用する際に、必要な施設利用情報を入手し、聴覚障害のない他の利用者との円滑なコミュニケーションがはかれる環境を創り出すための様々な知見を得ることである。研究方法は、事前準備として実施してきた成人聴覚障害者の環境改善調査を踏まえて、(1)ろう学校に通う児童・生徒の情報のバリア意識調査、(2)全国ろう学校における聴覚障害児童・生徒のための施設整備及び聴覚障害者情報提供施設の現状調査、(3)公共的施設・空間における音声情報の実態調査等を行った。 結論として、幼児期に相当のコミュニケーション訓練を行うことで、成長とともに就学後にコミュニケーションの改善が見込まれること、学校でも家庭でも、あるいは社会においても多様な視覚的情報を中心とした情報環境整備の必要性が判明した。その一方で、現在のろう学校においても十分な聴覚障害対応設備が用意されていないこと、また、人と人の会話、後方からの自転車のベルの音が聞こえないなど、日常生活の不便さも改めて浮き彫りになった。特に鉄道や医療機関利用でのバリア感は既往文献研究と同様な結果が得られた。さらに聴覚障害のある利用者が最も必要としている緊急時、災害時の情報入手手段の開発や整備が遅れており、今後の研究課題である。同時に、消防法をはじめとする法的環境整備の必要性が確認された。 尚、(3)音声実態調査は、今後の継続研究課題であるが、施設における音環境のコントロールの必要性もさることながら、公共空間における最も重要な情報・コミュニケーション手段としては、多様な手段による視覚的情報の提供が基本であり、単に文字やピクトによる情報伝達だけでなく、建築設備、空間設計においても施設を安全に利用するための方法が多様に存在することが判明した。
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