本研究は、物的環境整備のみならず、人的ネットワーク・地域コミュニティの中で子育てを支援していく、「安心して子育てができる住宅・住環境整備」のあり方の基礎的な知見を得ることを目的としている。 近年問題視されている「育児不安」現象に着目し、乳児を持つ世帯を対象に実施した(平成12〜13年度、福岡県K市)住宅・住環境に関するアンケート調査から、育児不安の度合いで分析を行った。回答世帯の居住地属性を定量化するにあたり、町丁字を分析単位として、生活関連公共施設(幼稚園、保育園、公園等)や交通施設への利便性を指標化し、また、平成7・12年度国勢調査・小地域集計の公表データを追加した。これを下に、育児不安と居住地属性の関連を多角的に分析し、続いて、典型地区を抽出して現地調査を実施した。主な研究の成果は、以下のとおりである。 1.中心市街地においては良質の民営の借家ストックが、周辺住宅地においては共同住宅の高さが育児不安と関係が深く、良質の持ち家が求められること、農村部においては、持ち家よりも、むしろ低層の一定規模の民営借家が求められていることが読み取れた。コミュニティの状況では、周辺部・農村部において、子育てやこれを支援することに関わる年齢の女性の居住年数が長いことが安心して子育てができる基本的な条件と解釈できた。 2.ほとんどの施設整備において、育児不安を低減する効果があり、特に周辺部の住宅地において顕著である。また、地域を越えた利用効果も推測されるが、一方で施設自体の魅力と立地の条件は大きい。ただし、交通アクセスの利便性においては、中心市街地では顕著な影響は見出せなかった。一方、農村部の公民館や幼稚園整備に効果が顕著なことは、今日における施設整備の意義を改めて再認識させるもので、子育て世帯、とりわけ新規に移住してきた若い母親をどのように導入していくか、期待と課題が大きい。
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