研究概要 |
本研究は,特別養護老人ホームの建替えに際して「従来型多床室」でのケア環境から,「ユニット型全室個室」として"リビング"や"デイコーナー"といった新たな空間導入がなされた小規模処遇への環境移行に伴う,全入居者の生活展開の変化(場所・行為・姿勢等の非参与による行動観察)と,入居者・施設職員双方の活動量の変化(アクティグラフによる微細な体動活動の測定)を調査し,日常行為の順応の過程を時系列的に比較検討し,施設更新時での居室の個室化に関する建築計画的な基礎資料を得ることを目的とする。 本年度は,環境移行前の従来型の処遇体制での調査を2回にわたり実施した(2003年8月及び10月)。本研究の主目的は環境移行による変化にあるので,現時点では主たる考察を行なう段階ではないため,事前調査分として検討できた内容について以下に報告する。 1.全入居者の日常生活能力を主とした属性について調査し要介護度を示す統合因子としてまとめたところ,日中の生活展開における睡眠・無為の観察頻度と有意な関連が認められた。また,アクティグラフから求めた夜間の睡眠判定時間においては,高齢度を示す統合因子との関連が認められた。 2.入居者の日中の体動活動数は0〜360回/分の範囲に分布しており,明確な個人差も観察された。平均すると中度の要介護度グループは250回/分あたりに緩やかなピークを持つのに対して,重度の要介護度グループは230回/分のあたりであった。対して,介護者に関しては体動活動数の分布の個人差はあまり見られず,どれも220〜280回/分に集中する結果であった。 3.入居者の行為別の体動活動数の比較では,各行為別の平均に差異が見られたことから(例:自力移動212回/分,睡眠・無為110回/分),今後の調査との比較による,この体動活動数を指標とした日常行為変化の分析の妥当性が検証できた。
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