本年度は、江戸近郊農村(一部は武家屋敷、宿場町)であり、関東大震災後に急速に市街化した荒川区を主な対象として、文献史料調査と現地実測調査から近代市街化過程を解明した。 文献史料調査では、江戸時代以降の絵図・地図・空中写真等を収集整理することで、近世末から戦後までの土地利用の変遷を把握した。その上で、「震災復興移転計画・移転補償」(東京都公文書館所蔵)や「火災保険特殊地図」によって、大正末から昭和初期の住民構成、借地・借家状況を街区毎に詳細に分析することで、日光街道沿い地区、街道裏地区、旧武家屋敷地区、耕地整理地区、農村集落周辺地区など、この間の急激な市街化過程の地域的特徴を捉えている。 現地実測調査では、戦災による焼失を免れた日光街道裏地区と日暮里地区において、震災前から昭和初期に建設された木造建物を実測調査した。街道裏地区では、震災前の二階建長屋、出桁造の店舗長屋、平屋長屋、昭和初期の玄関付二階建長屋など幾つかの異なる長屋形式が残されていること、震災復興計画が施された日暮里地区においても大規模借家経営の実態が判明し、また、仕事場付二階建町家と裏長屋が一体化した震災前の建物(曳家)の存在が確認された。さらに、天王祭の変容をみることで、都市空間の近代化過程と地域コミュニティの関係を探った。 その他、築地市場周辺地区や人形町地区・月島地区・東品川地区などで明治期から震災前後の市街化過程の状況を分析している。
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