本年度は、2カ年に亘って実施してきた荒川区および湾岸・埋立地の調査研究に対して、補足する意味で、近代都市化を推進した工場・学校・市場建築などの都市施設を取り上げ、周辺部の市街化との関係性など建築史的な側面からの分析を加えた。 まず、南千住において明治初年に建設された官営工場である「千住製絨所」および隅田川貨物駅(運河)を取り上げ、それらの施設の建設過程や空間構成について復原的考察を加えるとともに、周辺市街化との関係性を検討した。また、東京市における明治・大正期の小学校の空間形成を市街化過程との関係性から分析した。さらに、築地市場を中心に大正期の中央卸売市場築地本場移転にともなう周辺市街地の形成および、東京周縁部に設けられた市設小売市場の復原的考察を行った。 なお、臨海部については、旧町人地の周辺に位置する旧武家地の市街化過程として人形町・八丁堀・鉄砲州を取り上げ、それらが個性豊かな近代市街地を形成していく過程についても考察を加えている。 以上の分析から、重層的に形成されていった東京周縁部の居住環境の形成過程について総合的に把握し、その歴史的特質の一端を開示することができたと考える。
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