イタリア・ルネサンスにおける物語形式の建築書である「ポリフィーロの夢」は1499年に出版され、感覚的認識から、精神的な認識にいたるこの時代の芸術的、思想的な高揚を十全に表現しているとともに、作者の建築に対する関心の高さを示している。今年度はこの物語に関連する同時代の建築家や建築理論家との関連について考察した。 建築についての記述は大部分が後に書かれた第一書にあり、先に書かれた第二書ではほとんど関心が払われていないことにもよく現れているように、アルベルティの「建築書」がいかに彼に大きな影響を与えているかが伺える。ボルシによると、建築の中心性についての記述はアルベルティの影響によるものであり、コロンナの文体自体も、1447-48年の間に完成されたアルベルティの初期の作品である「Momus」の文体を模倣しているという指摘もされている。 美のイデアはコロンナによると宇宙の不断の調和的な動きと一致し、具体的に芸術的形態のシンメトリア、プロポーション、モドゥーロに反映される。したがって、モニュメントや建物はポリフィーロ的な舞台背景すべてにちりばめられ、ピタゴラスに始まる天体や宇宙生成の価値や重さを持った数的幾何学的シンボルに基づいている。コロンナにとって数はすべての美的現象の存在論的根幹へと達する。このことはコロンナがこの物語を創作するうえで2つの異なった美学的現象を融合し、重ね合わせる試みを、様々な言語の使用とテキストを補足する図版を使用するという非常にオリジナルなテキストを通して行っていることへと導かれる。このような図版とテキストとの併用は、ウィトルウィウスの原典に見られたとされているが直接的には、フィラレーテやFrancesco di Giorgioの手稿などの影響も推測される。 一方でイメージのイコノロジーは文体も含めて、古典のモデル、すなわち人文主義によってなされた古代への回帰にもとづきながら、他方で古代の資料全体がポリフィーロの官能的、心理的葛藤の歩みとともに中世の光の美学にしたがって、コロンナによって概念的に提示され、展開されている。この書の普及によってバロックからロマン派にいたるまでの多くの建築家造園家に影響を与えている。特にベルニーニはこの書に影響を受け、優れた芸術家は規範を犯し、新しい造形を目指しても良いがそうではない芸術家は規範を守るべきだと述べている。また、背中にオベリスクをのせた象の彫刻をミネルバ教会の前に作っている。 以上、見てきたように、コロンナは同時代の芸術家、建築家、人文主義者から多くのことを学び、夢という半覚醒の状況のなかで物語を展開することによって、現実の世界では実現不可能な世界を、ローマ、ギリシア、エジプト、エトルスクなど異国、異教の過去に遡ることによって、博学な知識を駆使して描き出し、後の世代に大きな影響を与え続けている。
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