1.オーダーの復元 古代ギリシア都市メッセネにおけるアスクレピオス神域の実測調査(熊本大学古代ギリシア建築調査団)で得られたデータを分析し、ストアのオーダーの復元を行った。このストアが2列のコリント式列柱を持ち、柱身には胡麻柄フルートが施され、柱頭にはエロス等の彫刻が施されていた。また、アーキトレイブとフリーズは一体の石材で作られ、フリーズ部分には牛頭骨と聖胚の浮彫が施され、その上にデンティルの付いたゲイソンが載せられていた。シーマは、コリント式の屋根瓦と一体として作られ、蓋瓦の先端、シーマの上にはパルメット文様のアンテフィックスが載せられていた。尚、各部寸法は実測した各要素の平均値として求めた。 2.屋根架構の復元 オーダー各部の実測調査と、屋根架構に関する調査結果を踏まえて、屋根架構及び不明であった円柱の高さについて復元を試みた。背面に大きく壁が立ち上がることから、屋根の形状は片流れとしたが、北西隅に残る横断梁の痕跡から、ストア内部においては内部柱を中心として両側に傾斜する天井が掛けられていると判断した。また、隅に45度方向に掛けられた横断梁は通常の梁より下の位置に架けられるものとして復元した。これらは、アテネのアッタロスのストアやブラウロンのストア等との比較検討からも、合理的な復元案であると考えられた。 3.設計過程の復元と設計法の検討 神殿平面の設計法を分析した結果、神殿はその幅が40尺として設計が始められ、単純な比例関係により柱間寸法が求められていることが分かった。一方、ストアは、南北ストアの長さが神殿幅の4倍、東西ストア長さは神殿幅のおよそ32/3倍が想定され、神殿の柱間寸法を基準寸法として、平面上の各部寸法の基本設計やオーダーの設計がなされた。南北ストアと東西ストア間に見られる柱間寸法の微妙な差は、基壇石材寸法の微調整により発生したことが判明した。
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