硝酸銀をNaBH_4で還元して作製した球形銀コロイド(粒径30nm)の水溶液について紫外・可視吸収スペクトルの測定を行い、銀コロイド粒子のプラズマ共鳴による吸収バンドが390nmに出現することを確認した。銀コロイド水溶液にオクタデカンチオール(ODT)のエタノール溶液を添加し、紫外・可視吸収スペクトルの経時変化をODT濃度の関数として測定した。その結果、ODT濃度に依存してプラズマ吸収バンドが時間とともに低波長側にシフトするとともにバンド幅が増大することがわかった。特に高濃度のODTエタノールを添加した場合には、プラズマ吸収バンドの変化は急速に飽和に達した。それゆえ、プラズマ吸収バンドの変化はODTの吸着によって銀コロイドの分散状態が変化したためであると解釈した。 そこで、ODTのコロイド粒子表面への吸着を実証するために、減衰全反射法(ATR)を用いて赤外吸収スペクトルの測定を行った。上記の紫外・可視吸収測定とは異なり、赤外ATR測定では全反射プリズム(Ge製)のごく近傍に存在するコロイド粒子のみが対象となる。最初に0.66-5.00mM濃度のODTエタノール溶液と水との混合液についてAIRスペクトル測定を試みたが、エタノールとは異なりODTのCH_3およびCH_2伸縮振動によるバンドはほとんど検出できなかった。他方、コロイド溶液にODTエタノールを添加した場合には、ODT濃度が0.66mMでも上記のバンドが明確に観測でき、そのバンド強度が時間経過とともに増大する一方、エタノールのバンド強度は減少することが明らかとなった。この事実から、Geプリズムの全反射表面において、ODTの吸着を媒介としてコロイド粒子の集合化が進行したことが示唆された。実際にプリズム表面を観察したところ、表面が鏡面となっていることがわかった。また、このようなコロイド集合体の形成には最適なチオール濃度が存在し、ODTの場合には0.66mMが最適であることが実証された。最適濃度はチオールのCH_2直鎖の長さにより異なり、オクタンチオールの場合には0.33mMあるいはそれ以下が最適であることを示唆する結果が得られた。
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