コロイド水溶液からコロイド粒子の単層膜を作成するためには、水溶液中のコロイド粒子表面に存在する化学種がコロイド粒子の安定化あるいはその凝集にどのように影響するかを先ず明らかにすることが必要である。本年度においては、水中の硝酸銀を水素化ホウ素ナトリウムで還元することにより銀コロイドを作成し、その反応副生成物イオンの銀コロイド粒子への吸着とその後の水浸漬処理の凝集に及ぼす影響を明らかにするために、シリコン基板に滴下した銀コロイドについて赤外吸収およびラマン散乱スペクトルの測定を行なった。 銀コロイド溶液の滴下直後に測定した赤外吸収およびラマン測定ではいずれも硝酸イオンに基づくバンドが観測できたが、純水に1時間以上浸漬すると、そのバンドはほとんど消失した。しかし、ラマンスペクトルでは水に5時間以上浸漬すると、逆にバンド強度が著しく増大することがわかった。これは、水浸漬によって銀コロイド粒子が適度に凝集し、いわゆるSERS活性サイトが増加したためと考えられる。オクタデカンチオール(ODT)のエチルアルコール溶液に銀コロイド凝集体を浸漬した後のラマン測定ではODTによるバンドは検出できなかった。この理由は硝酸イオンによって既にSERS活性サイトが占有されているためと解釈した。一方、赤外吸収スペクトルにおいては、それ以前の水浸漬処理の有無を問わず、ODTのバンドが出現した。これは、赤外吸収強度の増大に関わる表面電場がSERSにおける場合よりも長距離に及ぶことを示唆する。また、FE-SEM観察により、銀コロイド溶液のシリコン基板へ滴下量によって銀コロイド粒子の凝集状態が異なり、さらに水浸漬によっても変化することが確認でき、赤外吸収とラマン散乱測定に最適なコロイド凝集状態はそれぞれ異なることが明らかになった。以上の結果から、単層のコロイド粒子膜を基板に形成させるためには、基板の化学修飾が有効であることが示唆された。
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