1.Si(111)基板上の銀コロイド粒子(直径:30nm)にオクタデカンチオール(ODT)のエタノール・水混合液を滴下し、粒子の質量膜厚とODT濃度の関数としてODTの赤外吸収測定を行なった。その結果、ODTの赤外吸収強度がコロイド粒子の存在により増大することがわかった。また、ODT濃度に関わらず、各バンドの強度がコロイド粒子のある質量膜厚のときに最大となることもわかった。この事実は赤外吸収強度とコロイド粒子の凝集状態の間に密接な関係があることを示唆する。コロイド粒子の形態がその質量膜厚保によって変化することをFE-SEM観察により確認した。2.紫外-可視透過および赤外減衰反射(ATR)測定によって、水溶液中銀コロイド粒子のODT吸着による凝集について明らかにした。作成したままの銀コロイド水溶液は395nmにコロイド粒子のプラズマ共鳴に基づくピークを示した。ODTを溶かしたエタノールを銀コロイド水溶液に加えると、そのピークはブロードになり高波長側にシフトした。このことから、溶液中のコロイド粒子がODTの吸着によって凝集したことが示唆される。赤外ATR分光測定から、ODTのエタノール溶液をコロイド水溶液に加えると、ゲルマニウムATRプリズムの底面にコロイド粒子が凝集することがわかった。適度のODT濃度ではODT吸着によって強い凝集が起り、ODTの吸収バンドを観測することができた。3.銀コロイド溶液を作成する際に発生するイオン種が銀コロイド溶液をシリコン基板に滴下したときの銀コロイド粒子の凝集にどのような影響を及ぼすかを明らかにするために、He-Neレーザー(632.8nm)を励起源としてイオン種のラマン散乱を測定した。その結果、硝酸イオンに帰属できるラマンバンドが観測された。このバンドは銀コロイドを堆積させたシリコン基板を水中に1時間浸漬すると、ほとんど消失した。しかし、5時間の水浸漬によって、その硝酸イオンのバンドは水浸漬前よりも強くなった。このラマン散乱強度の増大は銀コロイドの近くに存在する硝酸イオンが水により希釈されたか、あるいは吸着していた硝酸イオンが水によりある程度脱離したことにより、銀コロイド粒子の凝集が進行し、これによりいわゆるSERS活性サイトが増加したためと考えられる。実際に、このような銀コロイド粒子をODTのエタノール溶液に浸漬しても、ODTに基づくラマンバンドは検出できなかった。これは、SERS活性サイトが硝酸イオンによって占有されていると考えれば説明できる。
|