塑性変形によりFCC金属中に発生する点欠陥集合体(主に、積層欠陥四面体)の生成機構解明を目的として研究を行っている。この機構は一般的には転位反応が関与するとされているが、他の機構も提案されており、今だ明白な解答を得るに至っていない。そこで、本研究では転位運動がバルク材のそれとは異なる薄膜試料を用いて点欠陥集合体の生成過程を電子顕微鏡によるその場変形実験により検証する。今年度は試料厚さ30〜100nmの範囲で任意の試料厚さを持つ金単結晶蒸着薄膜の作成方法を確立するための装置試作を行った。装置の試作に当たっては既存の真空蒸着装置を利用して真空中で岩塩を癖開し、その癖開面に金を真空蒸着する方式を採った。癖開は、真空外からの操作により片刃のナイフを岩塩に衝撃的に落下させる仕組みを作った。また、岩塩の温度を室温から600K程度まで制御できるモリブデンヒーターと熱電対を装備した。完成した本装置を用いて岩塩基板温度と金の蒸着量を変えて膜厚の異なる単結晶薄膜を作成し、電子顕微鏡にて評価を行った。なお、岩塩の癖開面:(110)、蒸着源と基板までの距離:5cm、真空度:2x10^<-6>Torr.とした。種々の条件にて実験を行った結果、岩塩基板温度は、550Kが最適であることが、また、金の蒸着量は70mg以下では連続膜になりにくいことが確認された。さらに、金蒸着終了後に基板温度を670Kで90分の焼鈍を行うとエピ成長時に単結晶薄膜内に形成されたと思われる双晶や積層欠陥などが激減することもわかった。以上の結果を踏まえて、本実験目的には、基板温度550Kにて金80〜90mgを連続蒸着し、その後前述の焼鈍を行うことに決定した。次年度はこの金単結晶蒸着薄膜を用いて電子顕微鏡内その場変形実験を行い、本研究目的の達成を目ざす。
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