今年度は研究期間2ヵ年の最終年度に当たる。本年は初年度から設計・製作に着手し完成させた金属単結晶薄膜作成装置を用いて、試料厚さ約50nm程度の金単結晶薄膜を作成し、主に電子顕微鏡内その場引張り変形実験を行った。実験の主たる目的は、変形後の試料中に大量発生する積層欠陥四面体(SFT)が、いつ、どこで、どのように、形成されるのかを調べ、変形によりFCC金属中に発生するSFTの生成機構解明を目指すことである。 以下に今年度行った電顕内その場引張り実験で得られた主な結果をまとめる。なお、その場実験では高感度テレビカメラによる記録と解析を多用し、フィルム撮影も併用した。また、電顕の加速電圧は200KeVである。 (1)SFTはクラック先端部の歪みの大きい場所でより多く発生することから、破断後の試料エッジ付近に集中して形成される。 (2)形成されたSFTは殆どが(111)滑り面上に並んでいる場合が多い。 (3)形成されたSFTのサイズは、数nm〜10nm程度である。 (4)クラックの進展に伴い、その先端部では転位の活動も活発である。 (5)SFT生成の容易さは試料厚さに関係しており、約50nm以下になると生成量は極めて少なくなる。 本実験により、SFTがいつ、どこで、どのように生成されるのかといった情報はある程度得られた。また、SFTの生成に空孔の移動度と転位運動が何らかの関与していることも観察結果が示唆している。しかし、依然としてSFT発生の素過程については不明な点もなお多く、その解明には空孔の移動速度を低下された状態での観察、すなわち低温でのその場引張り変形実験が不可欠と考えられる。
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