p型材料として一昨年度に対象としたイッテルビウム-ニオブ系硫化物を用い、n型材料として昨年度に対象としたスズ-チタン系硫化物を用いて、pn接合素子の試作を試みた。アルミニウム板を介して銀ペーストで接合されたpn素子に種々の大きさの電流を流して、素子両端に生じる温度差を測定したところ、通電初期には数度の温度差が生じたものの、1分以内の短い時間内で温度差がほぼ0となった。これは、試料のゼーペック係数の絶対値が両材料とも80μV/K程度とやや小さいために、温度差を生じさせるためには大きな電流を流す必要があり、この結果、素子のジュール熱が生じたためである。したがって、さらに優れた冷却特性を発現させるためには、より大きな熱電性能指数を有する材料を開発する必要がある。 そこで、大きなゼーベック係数が期待できる擬一次元構造を持つストロンチウム-チタン系硫化物に的を絞り、合成条件の最適化を行った。硫化ストロンチウムと硫化チタンを所定量秤量・混合した後、ペレット成型して石英管に真空封入して焼成を行ったところ、800℃において、目的化合物の良質試料が合成できることが明らかになった。得られた試料の室温におけるゼーベック係数は-180μV/Kと十分大きな絶対値を有していることが明らかになった。また、熱伝導率も0.7W/mKであり、これらの数値は実用ビスマス-テルル系材料よりも優れている。しかし、電気抵抗率がやや高いため、性能指数は最大で0.3程度であることが明らかになった。
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