研究概要 |
我々の研究グループがこれまでにd^<10>電子配置の陽イオンを含むペロフスカイト型酸化物Cd_3TeO_6に着目し,還元雰囲気中での熱処理,三価陽イオンによる二価カドミウムの少量置換などの手段によりこの酸化物への電子ドーピンクを試みてきた。これらの研究結果から,Cd_3TeO_6において電子の有効質量はホールよりも小さく,そのため,電子は非常に動きやすいのに対し,重いホールは格子のゆがみによって簡単に捕獲され移動しにくいことを予想された。Cd_3TeO_6のP型化を実現するためには,価電子帯頂上のエネルギーE(k)の曲率を大きくし、軌道の重なりを広げることが必要である。高温超伝導体La_2CuO_4などの銅を含むp型酸化物において,価電子帯頂上は主にCu3d軌道から成り,酸素2p軌道との相互作用が強いために価電子帯頂上のバンド幅(エネルギーE(k)の曲率)が大きくホール伝導を示しやすい。そこで,本研究ではCd_3TeO_6のCd^<2+>を1価のアルカリ金属(Li^+,Na^+)での単一置換(ホールの導入)及びCu^<2+>とアルカリ金属での同時置換(3d軌道の導入)によりホールドーピンクを試みた。Cd_<3-x-y>Cu_xA_yTeO_6(A=Li^+,Na^+)の試料は,固相反応法により合成した。得られた試料の単位格子体積は,Cd^<2+>よりもイオン半径の小さなLi^+,Cu^<2+>を置換した試料では減少し,一方でイオン半径の大きなNa^+を置換した試料では増加した。試料Cd_<3-x>A_xTeO_6(A=Li^+,Na^+)のゼーベック係数は負の値であり、伝導キャリアがホールではなく、電子であることが分かった。しかし、試料の伝導性がアルカリ金属の置換量に従って著しく減少したことから、ホールはアルカリ金属の置換によって生じたことを示唆されたが、伝導キャリアとして働いていないことが判明した。Cu^<2+>のみを置換した試料(Cd_<2.9>Cu_<0.1>TeO_6)のゼーベック係数は負であったが、それにLi^+の置換を加えるとゼーベック係数は正の値となり、キャリアが電子からホールに変化したことがわかった。伝導タイプの変換(n→P)は、Cu^<2+>濃度に依存することか分かった。n型からp型への変換の組成閾値はCu^<2+>濃度0.05<x【less than or equal】0.10付近であった。アルカリ金属のみの置換では,導入されたアルカリ金属は価電子帯の頂上から深いアクセプター準位を形成する。それゆえに,室温ではアクセプター準位に電子を励起されることは難しく,局在した不純物バンドを形成し,伝導可能なホールキャリアの濃度は低くp型化は実現しなかった。しかし,エネルギー準位が相対的に低い電子の満たした4d軌道に銅の3d軌道を導入すると,新しく形成されたアクセプター準位は価電子帯の頂上に近くなり,電子の遷移が容易になったため伝導可能なホール濃度が増加しホールの伝導性か良くなることが分かった。
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