超伝導物質探索の指針を得るためには、結晶構造の違いを越えた電子状態の特徴を見いだすことが重要であるが、有機化学反応の分野では、同じ機構で反応する分子がその構造の違いを越えて同型の軌道を作る傾向があることが指摘されている。本研究では、材料物性自身を固体凝縮系化学反応現象とみなし、ある結晶構造下での電子状態というよりも、むしろその結晶構造から積極的に原子を変位させたときの、電子状態の変化・応答特性を知ることに主眼を置いて超伝導転移温度を評価する。Ti、V、Zr、Nbで、超伝導転移温度が既知のB1型構造の窒化物、炭化物、酸化物を対象として、M_<14>A_<13>(M=Ti、V、Zr、Nb、A=C、N、O)クラスターモデルを設定し、モデル中心のA原子のみを変位させたときの分子軌道関数の変化の仕方をDV-Xα分子軌道法により解析し、それと超伝導転移温度との対応関係を調査した。原子変位に伴い、中心のA原子と周囲各M原子とのBond Overlap Population(BOP)は変化し、BOPに偏りが生じる。変位させる中心非金属原子と、変位方向にあり近づいていく金属原子とのBOP値を分子、それと反対方向の遠ざかっていく金属原子とのBOP値を分母として、BOPの比を算出すると、窒化物でBOPの比が大きく変化する原子変位量のときに、各化合物における超伝導転移温度の高低関係と算出したBOPの比の大小関係に対応関係が認められた。この結果は、超伝導という固体物性であっても、これが分子軌道と密接な関係にあり、固体物性そのものを固体凝縮系における一種の化学反応現象と捉える視点が重要であることを示唆している。物質探索に際しては、固体物性としての超伝導現象と、固体化学反応としての触媒現象の関連性に着目することが有効であると思われる。
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