磁場により数%もの歪を制御できる材料として、Fe-Pd系の強磁性形状記憶合金に関心が寄せられている。この合金系において磁場により巨大歪を制御できるのは、磁場により双晶変形をさせることができるためである。これまでに、我々は、Fe-31.2Pd(at.%)合金において、磁場により3%もの歪が発生できることを示した。このような大きな歪が現は、FCTマルテンサイト状態でしか発生させることができないため、FCTマルテンサイト変態温度を上昇させることが、重要課題のひとつである。本研究においては、マルテンサイト変態温度を上昇させる方法として、まず第3元素を添加し、変態温度を調査した。その結果、第三元素の添加によりFCTの存在領域を室温付近にすることは、困難であることが、明らかとなった。そこで、二元系においてマルテンサイト変態開始温度をできるだけ高くなる組成の合金を調べ、Fe-30Pd(at.%)を境にして、それ以下のPd濃度の場合は、BCTが室温で混在するが、それ以上のPd濃度の場合はFCT単独のマルテンサイトとすることができることがわかった。この、Fe-30Pd合金の単結晶の育成を試みた結果、この組成においては、液相線と固相線の温度差が大きいため、試料には偏析が生じやすいことがわかった。偏析をなくすために、溶解後固相線温度直下の温度において、数日間の均一化処理を施し、室温付近にFCT変態を有する比較的均一な単結晶試料を作製することに成功した。この試料を用いて、室温において磁場によりバリアント再配列が実際に起きることを確認した。さらに、Fe-31.2Pd合金の結晶磁気異方性定数、双晶変形応力を求め、これらの結果をもとに、磁場による双晶変形機構を統一的に説明することに成功した。
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