金属の製錬工程では環境負荷低減の要請が強まっており、その設計にはシステムの熱移動現象の把握が必須である。またこれらの要請に対応し製錬プロセスにおける高温領域の珪酸塩融体の熱的性質の測定が行われている。しかし、精錬プロセスの熱移動における最も重要な物性値の一つである珪酸塩融体の高温領域の熱伝導率熱伝導率は、いまだに測定者や測定方法により測定値が大きく異なり、信頼性の高い値が得られていない。 本研究では二つの方向からこの問題にアプローチした。一つは、従来の研究で得られた値を整理しデータベース化すること、もうひとつは新しい原理に基づく信頼性の高い測定法を確立し精度の高いデータをあらたに実測することである。本研究では、肉薄の白金坩堝に試料の珪酸塩融体を満たし、そのるつぼ底面をパルス加熱し、その後の白金坩堝の温度応答から試料の熱伝導率を求める手法により、アルミナ/シリカ/カルシア系スラグの熱伝導率を測定した。その結果と、作成したデータベースを利用した今までの研究で得られている値に対する考察から2つのモデルを検討した。 一つは珪酸塩のSi-O-Siの結合を通して熱が伝播するモデル、もうひとつは融体中の構造の規則性により熱移動の大きさが決まるとするモデルである。様々な考察を行い、Si-O-Siの結合を通して熱が伝播するモデルは実験結果をよく説明しないこと、むしろ、熱伝導率は構造の規則性によって決まり、特に結晶相の存在する存在する組成近傍の融体の規則性はそれ以外の組成の融体より高く、このため、他の組成より高い熱伝導率が生ずることの可能性を指摘した。
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