1.乾燥時ならびに保存期間中の酵素の活性保持 糖はグルコース、スクロース、トレハロース、マルトースを、酵素はアルコールデヒドロゲナーゼ(ADH)を用いて糖-酵素水溶液を調製し、市販の電子レンジによりマイクロ波乾燥を行った。得られた試料を真空下で試料温度を65℃に保ち、残存酵素活性の経時変化を調べた。全ての糖で乾燥時の失活が防止でき、さらにグルコース以外の糖では保存期間中の酵素活性を保つことができた。なお、特にマルトース添加試料においては、保存期間中に残存酵素活性が向上するという特異な現象が見られた。原因を調べるため、試料中における糖の結晶化度、ガラス転移温度、ならびに水素結合形成度を調べた。その結果、いずれの糖もアモルファス状態であったが、マルトースは他の糖と比べタンパク質との水素結合形成度が低かった。これよりマルトース添加試料において酵素活性が向上したのは、マルトース添加試料では熱振動によりタンパク質が本来の高次構造を復元しやすいためと考えられる。 2.糖-酵素水溶液のシミュレーション 糖としてグルコースとスクロースを、タンパク質としてADHを用いた。ADHの表面の一部を切り出したものと、それを複製して反転させたものを組み合わせてユニットセルの中央に配置した。水分子400個と糖分子1個を配置し、3次元周期境界条件を設定してNPTアンサンブル分子動力学シミュレーションを実行した。プログラムはCerius^2を使用し、分子力場はDreiding Force Fieldを用い、電荷はCharge Equilibration法で決定した。タンパク質を構成する原子のみの平均二乗変位(MSD)を解析したところ、糖を配置した方がMSDが小さくなった。このことは糖添加によってタンパク質が熱安定化されることを示唆するものであり、MSDは熱安定性の評価指標として有効であると考えられる。
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