研究概要 |
ポリ乳酸に代表される生分解性ポリエステルは環境中での微生物分解及び生体内での分解が可能なことから環境に優しい高分子材料や医療用材料として注目されている。これらの生分解性ポリエステルは多孔質化することにより,濾過膜としての分離機能や細胞増殖用の足場材料としての機能を付与することが可能である。本研究では,熱誘起相分離法を用いてポリ乳酸をはじめとする各種生分解性ポリエステルの多孔質化を行い,各生分解性ポリエステルの物理化学的特性,溶液の組成および温度履歴などの多孔質化条件と相分離時における液滴の成長,さらに作製した多孔質体の孔径との関係を検討した。特にポリ乳酸,及び,ポリ乳酸-ポリカプロラクトン-ブレンドポリマーを用いてバイオプロセス用多孔質濾過膜を作製し,作製条件と作製した多孔質膜の濾過特性(濾過抵抗,粒子保持特性)について詳しく検討した。その結果,スクリーンフィルター型のポリ乳酸多孔質膜とデプスフィルター型のポリ乳酸-ポリカプロラクトン-ブレンド膜を開発することに成功した。後者は特に酵母懸濁液の濾過において低圧で高い濾過速度が得られることを示した。また,ポリ乳酸多孔質膜のバイオリアクターへの応用として,白色腐朽菌Trametes versicolorを用いた膜面液体培養法による酸化酵素ラッカーゼの生産を検討した。培養温度28℃にてはポリ乳酸多孔質膜は安定であり,膜面上に増殖した白色腐朽菌を繰り返し培養することにより,著量のラッカーゼを生産することに成功した。 本研究で進めた,多孔質化による高機能生分解性ポリエステル材料の開発とそのバイオプロセスへの応用研究が,持続的なバイオインダストリー(Sustainable Bioindustry)の発展や再生医工学(Tissue Engineering)などの医療工学の高度化に寄与することが期待される。
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