試験管内で胚性幹細胞(ES細胞)の分化を誘導する場合、まず浮遊培養系にて胚様体(Embryoid body ; EB)と呼ばれる球状の細胞凝集塊を形成させた後、このEBを接着培養系に移し、ここでさらなる分化誘導を行うのが一般的である。現在、EB形成には懸滴培養法(Hanging drop method ; HD法)という手法が主に用いられているが、HD法は操作が煩雑で熟練を要するため、EBの形成率が低く、形成されるEBの質も一定でないなどの問題がある。本研究では、簡単な操作で質的に均一なEBを効率的に形成する方法について検討を行った。培養基材の材質及び基材表面の処理法が異なる4種類のU底96we11プレート(ポリスチレン製;PS、ポリプロピレン製;PP、細胞外マトリックス処理:ECM、2-Methacryloyloxyethyl Phosphorylcholine処理;MPC)の各wellに、ES細胞懸濁液200mlを播種してEB形成培養を5日間行った。その結果、PSおよびPP製のプレートではEBの形成はみられなかったが、ECMおよびMPC処理プレートにおいてはEBが形成された。その形成効率はほぼ100%であり、HD法におけるEB形成率60%に比べ優れていた。ECMおよびMPC処理プレートで形成されたEBを接着培養して心筋へ分化させたところ、接着培養開始から5日目までにほぼ100%のEBにおいて心筋の拍動が観察された。このことから、両プレートで形成されたEBが、質的にも十分なものであることが確認された。
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