ES細胞は再生医療の素材として期待されており、その増殖及び分化を制御する技術の確立が求められている。本研究では、マウスES細胞の増殖及び分化に深く関わると考えられる物理化学的因子に注目し、培養容器の性状や形状あるいは培養中の酸素濃度が、細胞増殖及び胚様体(EB)形成にどのように影響するのかを検討した。 2-Methacryloyloxyethyl Phosphorylcholine(MPC)で表面を処理したU底96-well plateに、ES細胞1000個を播種してEB形成培養を5日間行った。その結果、ほぼ100%の形成効率でEBが形成された。これは、従来法である懸滴培養法に比べて優れていた。また、操作も簡便であった。培養容器に細胞が付着しないことが、EB形成には重要であることがわかった。また、容器底の形状は、フラットであるよりも、U形やV形の方が好ましくかった。形成されたEBは、様々な細胞系列に分化させることが可能であった。例えば、EBを接着培養すると、その全てに心筋の拍動が観察された。これにより、新規なEB形成培養法が確立された。 ES細胞は、20〜40%-pO_2下において良好に増殖したが、5%-pO_2下では増殖が顕i箸に抑制された。細胞当たりのAP活性は、酸素分圧が高いほど維持されており、酸素が不足すると細胞増殖が低下し、分化が進む傾向があることが示唆された。いずれの酸素分圧下でもEB形成がみられたが、5%-pO_2で形成されたEBは小さく、構成細胞数も少なかった。これに対し、40%-pO_2下で形成したEBは、細胞密度が最も高くなった。心筋の発生は、酸素分圧が高い方が観察されやすく、拍動も強く現れた。EB形成と接着培養を5%-pO_2下で行ったものは、拍動の出現数が少なかった。
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