現行の舶用レーダでは、観測毎に直接計測できるのは目標の方位と距離すなわち位置のみである。一方、AIS(Automatic Identification System)では、船舶の位置、針路、速力などの動的情報とともに船舶の識別コードが通報される。これら2種類のセンサーによる目標の情報を統合する際に位置情報のみを用いた相関処理では、観測対象となる船舶が接近した場合に誤りが生じる。特に、レーダでの船舶の識別は困難な課題である。この課題を解決するために研究を実施し、次の成果を得た。 1.ISAR(Inverse Synthetic Aperture Radar)画像による船舶の識別 マリンレーダへもISARの原理を適用できることを示し、10GHz帯のISARを用いて分解能0.5〜2.0mの船舶の電波画像を取得できることを実験とシミュレーションで明らかにした。東京湾内の様々な場所にISARを設置した場合を想定したシミュレーションにより、船舶のISAR画像を生成した。その結果、東京湾を出入りする船舶を監視するには、船舶の識別に有効となる船舶を横から見たISAR画像を高い頻度で取得可能となる観音崎と富津岬の双方にレーダを設置するのが良いことが分かった。この2ヶ所に設置したレーダから得られるISAR画像と対象船舶の運動との関連を分析した結果、ロール運動が大きいときは観音埼、ピッチ運動が大きいときには富津岬というように選択することで、より効果的な船舶監視ができることが分かった。 2.複数の舶用レーダ画像の合成による船舶の形状推定 現行の舶用レーダ画像から船舶の形状を得るため、各船舶のレーダの照射面画像を集め、それらを合成することで形状を求める方法とそのアルゴリズムを考案し、実験にてその有効性を明らかにした。実験結果より、異なる方向より観測したレーダ画像を合成することで船舶の形状を表示でき、考案した形状推定アルゴリズムを適用することで、アスペクト角を5°程度、船体の長さを40m程度の誤差で推定できることを示した。
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