研究概要 |
本研究では,構造物が受ける外力を正確に把握して疲労損傷発生や疲労寿命を予測することが不可能である,溶接止端部に発生する疲労き裂を対象に,『この構造物の,ここに,今,損傷があるか,ないか』を明確にすることで,溶接構造物の安全性を確保することを目的にしており,2年計画の研究の2年目である。 本年度得られた成果は,下記のとおりである。 (1)溶接線長さ方向の止端に沿って発生・合体する疲労き裂の検知 溶接構造物において溶接線長さが非常に長くなる(大型船舶では数十kmにもなる)。よって,溶接止端に沿って溶接線長さ方向に発生する疲労き裂は膨大な数になり,これらが合体して長大なき裂になると,構造物は全体的な破壊に至る可能性がある。この試験では,このような疲労き裂の検知について,昨年のひずみゲージ,圧電素子に加え,き裂検知用塗料を用いて調査した。 その結果,圧電素子の検知感度は高く,ひずみゲージでもある程度の検知は可能であった。なお,き裂検知用塗料は検知感度が高いものの,モニタリングの自動化やデータの電子化には問題があることが明らかとなった。また,圧電素子は,面外方向の変形と面内方向の変形それぞれに対して電圧が出力され,ある時点の出力結果の分析方法を工夫する必要があることも明らかとなった。 (2)伝播中の疲労き裂における加速・減速・停留状況のモニタリング 実働荷重負荷では,疲労き裂伝播中に変動荷重の振幅が大きく変化する。このことにより,伝播中の疲労き裂は加速・減速・停留することになる。この状況をモニタリングするために,今回は,ランダム繰り返し荷重を載荷中のき裂先端でのヒステリシスループを用いた。このループの各部分における変化率と変曲点位置に注目することで,加速・減速・停留のいずれの状態にあるかを判断できることを確認した。なお,これは試験室レベルで可能であり,実構造物で使用可能にするためにはまだ問題が残されている。 これらの研究により,溶接残留応力や応力集中部が存在する溶接構造物に発生する疲労き裂の検知に関する基本的な方法について確認でき,実構造物での検知に関する貴重な結果が得られた。
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