研究概要 |
本研究では,構造物が受ける外力を正確に把握して疲労損傷発生や疲労寿命を予測することが不可能である,溶接止端部に発生する疲労き裂を対象に,『この構造物の,ここに,今,損傷があるか,ないか』を明確にすることで,溶接構造物の安全性を確保することを目的にした。得られた成果は,下記のとおりである。 (1)歪ゲージによる検知領域の確認と最適なセンサ設置間隔の把握 試験片幅方向にビード溶接をした幅広試験片を用いて疲労試験を行った。その結果,今回用いた試験片幅程度では,貼付した試験片幅方向の全ての歪ゲージがいずれかの箇所から発生した極微小疲労き裂にも反応しており,60mm程度離れていても歪ゲージで検知可能であることを確認した。 (2)圧電セラミック素子,圧電フィルムによる損傷程度検知の可能性の検討 圧電セラミック素子,および圧電フィルムを用いて,疲労き裂発生検知の可能性を試験した。その結果,歪ゲージより格段に早い段階で疲労損傷発生に対して出力電圧が変化することを確認した。なお,圧電素子に比べて圧電フィルムの出力電圧値は小さく,大きな寸法のセンサとして使用する必要があることを明らかにした。 (3)溶接線長さ方向の止端に沿って発生・合体する疲労き裂の検知 溶接止端に沿って溶接線長さ方向に発生する疲労き裂は,長大なき裂になると構造物は全体的な破壊に至る可能性がある。この疲労き裂の検知について,ひずみゲージ,圧電素子,き裂検知用塗料を用いて調査した。 その結果,圧電素子の検知感度は高く,ひずみゲージでもある程度の検知は可能であった。き裂検知用塗料は検知感度が高いものの,モニタリングの自動化やデータの電子化には問題があることが明らかとなった。 (4)伝播中の疲労き裂における加速・減速・停留状況のモニタリング 実働荷重負荷では,疲労き裂伝播中に変動荷重振幅が大きく変化するため,疲労き裂は加速・減速・停留することになる。この状況をモニタリングするために,ランダム繰り返し荷重を載荷中のき裂先端でのヒステリシスループを用いた。ループの各部分における変化率と変曲点位置に注目することで,疲労き裂の伝播状況を把握できることを確認した。なお,これは試験室レベルで可能であり,実構造物には問題が残されている。 これらの研究により,溶接残留応力や応力集中部が存在する溶接構造物に発生する疲労き裂の検知に関する基本的な方法について確認でき,実構造物での検知に関する貴重な結果が得られた。
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